このページでは浅田真央の得点について分析します。(2009/11/20 著)
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フィギュアスケートの採点は、TES(技術点)、PCS(構成点)、ディダクション(減点)の3つの得点を合計し計算される。具体的には、3人の技術審判員が選手の行なった要素1つ1つの種類と難易度(俗にレベルと呼ばれる)を判定し、転倒などの減点がないかどうかも判定する。最大9人[1]の演技審判員は選手の行なった要素1つ1つの出来栄え(GOE)を-3~+3の7段階で評価しつつ、演技終了後にPCSと呼ばれる構成点をつける。最大9人の演技審判員のうち2人は抽選によって外され、残りの7人の演技審判員が判定したGOEは最上位と最下位の2つをカットし平均値を求め、要素1つ1つに足し全ての合計を出す。これがTESとなる。また同様にPCSも最上位と最下位の2つをカットし平均値を求める。これらTESとPCS、減点を含めた全ての得点の合計が選手の得点となる。
以上が、2009-2010シーズン国際スケート連盟の主催する国際大会における採点方式のおおまかな流れである。なお演技審判員の人数や抽選によってカットされる人数などは、シーズン毎に改正されることや国際スケート連盟が主催しない大会(例えば国内選手権)では独自の方式を導入するケースもあるため上記の方式が全てのシーズン及び大会で適用されるわけではない。
TESとはTotal Element Scoreの頭文字を取った略語で技術点とも呼ばれ、基礎点とGOEを足し求められる。基礎点とは、技術審判員が選手の行なった要素1つ1つの種類と難易度を判定したもので、GOEとは演技審判員が選手の行なった要素1つ1つの出来栄えを-3~+3の7段階で評価したものである[2][3]。単純な例を挙げると、
上記の通り、TESとは要素1つ1つの種類と難易度、その出来栄えを客観的に評価したものである。つまり基礎点の高い選手は難しい要素をこなした選手、GOEが高い選手は要素を綺麗に行なった選手、TESが高い選手は難しい要素を綺麗に行なった選手と言える。易しい要素を綺麗に行なった選手は基礎点は低いもののGOEが高く当然TESも高くなるが、難しい要素を綺麗に行なった選手よりは必然的に劣る。なお、GOEは-3~+3の7段階で評価するが、単純にその数値を足すわけではなく、要素の難易度に応じて配分があるため注意を要する。
PCSとはProgram Components Scoreの頭文字を取った略語で、演技点、演技構成点などとも呼ばれ、5つの要素をそれぞれ0.25点刻みの10点満点で評価する。このためファイブコンポーネンツ(5 Components)とも呼ばれることがある。5つの要素とは以下の通り。
これらの5つの要素は、それぞれ基準となる指針が設けられ演技終了後に演技審判員が評価を行なう。演技審判員が評価した5つの要素それぞれの最上位と最下位をカットし平均を出し、その5つの平均の合計に係数を掛けたものがPCSとなる。係数は、男女シングルで異なっており、男子シングルのショートプログラム「1.0」、フリースケーティング「2.0」、女子シングルのショートプログラム「0.8」、フリースケーティング「1.6」である。前述のTESも含めた単純な例を挙げると、
TESと違う点は、TESは要素1つ1つ細かく採点したその合計であるが、PCSは演技全体の雰囲気から評価すること、TESは基礎点という絶対的基準が設けられ客観的な評価ができるが、PCSは絶対的基準はなく主観的な評価になり易いことである。
PCSは演技全体の「スケート技術」、「要素のつなぎ」、「演技力」、「振り付け」、「曲の解釈」の評価であるが、前述のように基準となる指針[5]はあるものの絶対的基準はなく主観的な評価になり易い。具体的には、TESは難しい技をやることで基礎点が上がり、かつ綺麗に成功させればGOEで評価され、結果的に基礎点とGOEの合計であるTESも上昇し高得点となるが、ミスを繰り返せば基礎点は下がり、かつGOEも伸びず、結果としてTESも伸びない。これはどのような選手にも当てはまることである。その一方でPCSは絶対的基準が存在しないため、実績のあるトップ選手がミスを繰り返しても一定の得点が出、若手選手がミスなく演技をこなしても実績のあるトップ選手には及ばないという珍現象が起こるのである。このため、難しい要素1つ1つを綺麗にこなし高いTESとなったが、PCSが低い評価となり表彰台を逃す若手選手もいれば、ミスを連発しTESが低くなったにも関わらず、PCSが高く表彰台に上る選手がいる。このことからPCSは選手の「実績点」や特定の選手を勝たせるための「調整点」などと言われ、揶揄の対象となっているのも事実である。
国際スケート連盟(ISU)では、公認する大会の採点結果および採点内容をHP上で公開しており、誰でも無料で閲覧することが出来、これを基に採点結果を分析することが可能である。
「Starting Orders / Result Details」をクリックすると以下のような画面が現れる。「Category」欄は上から男子シングル、女子シングル、ペア、アイスダンス、「Segment」欄はショートプログラム、フリースケーティング、オリジナルダンスなどの種目、以下、「Entries」はエントリーした選手、「Panel of Judges」は審判団の構成、「Result」は総合結果、「Starting Order / Detailed Classification」は種目の順位、「Reports」欄が採点結果および採点内容の詳細である。
「Reports」欄の「Judges Scores (pdf)」をクリックするとpdfファイルで採点結果および採点内容の詳細である採点表を閲覧することが可能であるが、当然のことながら試合が終わらない限り公開されない。なお、これら採点表は俗に「プロトコル」または「プロトコール」(protocol)と呼ばれることがあるが本来の意味と若干異なるため、ここでは「採点表」と統一して記述する。
下の採点表は2009年10月にロシアで行なわれたロステレコム杯女子シングルフリーの浅田真央の採点表[4]である。上段左からフリーの順位、選手名、滑走順、フリーの得点、TES、PCS、減点の順に記載されている。中段左から要素の内容が略記号で表され、右がその要素の各演技審判員によるGOE評価、下段は各演技審判員のPCS評価である。
通常、一般のファンがこれら採点表を検証する場合、ジャンプの回転はどうだったのか、ステップやスピンのレベルはどうだったのか、PCSの評価はどうだったのかなどを知るだけで十分である。ややこしい計算まで自分でやる必要はない。だが、どのようにして合計点が出されているのか、その流れを知ることでさらに知識を深めることが出来るであろう。試しに要素2つとPCSの計算をしてみると以下のようになる。なお、この採点表では左から2番目のジャッジと左から6番目のジャッジは抽選で漏れているため、対象外である。
2番目に浅田真央は「1A」を行なった。「1A」とは「1回転のアクセルジャンプ(=シングルアクセル)」を示す略記号である。シングルアクセルの基礎点は「0.8点」で、その出来栄えを示すGOEは左から「-1 1 0 0 0 0 0 0 0」という評価であった。ただし、左から2番目と6番目のジャッジは抽選で漏れ対象外であるためこの2つを除くと「-1 0 0 0 0 0 0」となる。シングルアクセルのGOEの配分は「0」で「0」、「-1」で「-0.2」であるため、これらを当てはめると「-0.2 0 0 0 0 0 0」である。最上位は「0」(重複しても1つだけ)で最下位は「-0.2」であり、この2つをさらに除くと「0 0 0 0 0」、この平均は「0」であり、GOEは「0」となる。基礎点の「0.8」とGOEの「0」を足すと「0.8」、これがシングルアクセルの得点である。
12番目に浅田真央は「CCoSp3」を行なった。「CCoSp3」とは「チェンジフットコンビネーションスピン(Change Foot Combination Spin)のレベル3の難易度」を示す略記号である。このチェンジフットコンビネーションスピンのレベル3の基礎点は「3.0」で、その出来栄えを示すGOEは左から「1 2 2 2 1 1 1 1 2」、左から2番目と6番目のジャッジの部分を除くと「1 2 2 1 1 1 2」となる。最上位は「2」、最下位は「1」であり、この2つを除くと「2 1 1 1 2」である。スピンのGOEの配分は「2」で「+1.0」、「1」で「+0.5」であるため、これらを当てはめると「1.0 0.5 0.5 0.5 1.0」、この平均は「0.7」であり、GOEは「0.7」となる。チェンジフットコンビネーションスピンの基礎点「3.0」にGOEの「0.7」を足すと「3.7」、これがチェンジフットコンビネーションスピンの得点となる。
下段にあるPCSの「Skating Skills(=スケート技術)」で浅田真央は左から「7.75 7.00 7.75 7.50 7.25 7.00 7.25 7.75 7.25」という評価であった。左から2番目と6番目のジャッジの部分を除くと「7.75 7.75 7.50 7.25 7.25 7.75 7.25」となる。最上位の「7.75」と最下位の「7.25」を除くと、「7.75 7.50 7.25 7.75 7.25」であり、この平均は「7.50」、これが浅田真央の「スケート技術」の得点である。以下、「Transition/Linking Footwork」、「Performance/Execution」、「Choreography/Composition」、「Interpretation」を計算するとそれぞれ「7.40」、「7.20」、「7.50」、「7.45」となる。これらを合計すると「37.05」となり、女子シングルのフリーの係数「1.6」を掛けることになっているため「37.05」に「1.6」を掛けると「59.28」、これが浅田真央のフリーのPCSとなる。
これまで長々と採点方法など説明したが、いよいよ本論に移ろうと思う。本論とは浅田真央のPCSでの「救済」についてである。マヲタの多くは現実を見ずに「キム・ヨナは八百長だ」、「採点がキム・ヨナだけおかしい」などと撒き散らしているが、実際におかしいと思われるのは浅田真央の方だろう。このようなことを書くと「おまえは在日だ」、「チョン死ね」、「工作員乙!」など言われるかもしれないが、紛れもない事実なのである。どういうことなのか?
前述のようにフィギュアスケートの得点は、TES、PCS、減点の3つの得点を合計し計算され、その得点を基に順位が決定される。おさらいとなるが、TESとは要素1つ1つの種類と難易度、その出来栄えを客観的に評価したものであり、PCSとは演技全体の雰囲気から評価するもので、絶対的基準はなく主観的な評価になり易い曖昧なものである。このため、難しい要素を綺麗に行ないTESは高得点になったもののPCSで点数が伸びずに表彰台を逃す選手がいる一方で、ミスを連発しTESは伸びなかったもののPCSで高得点を挙げ表彰台に上る選手がいるのである。ミスを連発しTESで点数が伸びなかったにも関わらずPCSで高得点を挙げ表彰台に上るその筆頭は浅田真央なのだ。
以下は浅田真央が出場した主な国際大会での「TES順位」と「実際の順位」の一覧である。表中の「TES順位」とはショートとフリーのTESのみを合計した順位で、「実際の順位」とはTESとPCSと減点を加えた実際の順位を指す。
TES順位 | 実際の順位 | 選手名 | TES合計 (SP + FS) |
---|---|---|---|
1 | 1 | 安藤美姫 | 109.43 (38.70 + 70.73) |
2 | 2 | キミー・マイズナー | 94.98 (31.70 + 63.28) |
3 | 4 | サラ・マイアー | 92.21 (32.80 + 59.41) |
4 | 3 | 浅田真央 | 88.43 (39.40 + 49.03) |
5 | 5 | エミリー・ヒューズ | 71.26 (31.34 + 39.92) |
6 | 6 | 浅田舞 | 69.57 (26.10 + 43.47) |
TES順位 | 実際の順位 | 選手名 | TES合計 (SP + FS) |
---|---|---|---|
1 | 1 | キム・ヨナ | 98.44 (36.66 + 61.78) |
2 | 3 | サラ・マイアー | 89.92 (33.10 + 56.82) |
3 | 2 | 浅田真央 | 87.64 (39.50 + 48.14) |
4 | 4 | 村主章枝 | 75.46 (27.34 + 48.12) |
5 | 5 | 安藤美姫 | 73.84 (38.44 + 35.40) |
6 | 6 | ユリア・セベスチェン | 65.29 (23.60 + 41.69) |
TES順位 | 実際の順位 | 選手名 | TES合計 (SP + FS) |
---|---|---|---|
1 | 2 | 中野友加里 | 93.83 (31.30 + 62.53) |
2 | 1 | 浅田真央 | 92.54 (30.80 + 61.74) |
3 | 3 | ジョアニー・ロシェット | 89.98 (30.00 + 59.98) |
4 | 4 | エミリー・ヒューズ | 86.54 (33.80 + 52.74) |
5 | 5 | アシュリー・ワグナー | 82.86 (28.06 + 54.80) |
6 | 6 | 武田奈也 | 81.33 (30.02 + 51.31) |
TES順位 | 実際の順位 | 選手名 | TES合計 (SP + FS) |
---|---|---|---|
1 | 2 | カロリーナ・コストナー | 98.22 (36.34 + 61.88) |
2 | 3 | キム・ヨナ | 97.53 (32.71 + 64.82) |
3 | 1 | 浅田真央 | 97.11 (35.22 + 61.89) |
4 | 5 | ジョアニー・ロシェット | 93.51 (32.99 + 60.52) |
5 | 4 | 中野友加里 | 91.81 (34.83 + 56.98) |
6 | 6 | サラ・マイアー | 88.74 (32.17 + 56.57) |
TES順位 | 実際の順位 | 選手名 | TES合計 (SP + FS) |
---|---|---|---|
1 | 1 | ジョアニー・ロシェット | 93.37 (32.50 + 60.87) |
2 | 3 | キャロライン・ジャン | 82.46 (26.80 + 55.66) |
3 | 2 | 浅田真央 | 80.59 (29.00 + 51.59) |
4 | 4 | キャンディス・ディディエ | 76.29 (28.24 + 48.05) |
5 | 5 | ベアトリサ・リャン | 69.53 (28.20 + 41.33) |
6 | 6 | 許斌シュ | 67.51 (20.92 + 46.59) |
TES順位 | 実際の順位 | 選手名 | TES合計 (SP + FS) |
---|---|---|---|
1 | 1 | キム・ヨナ | 99.15 (42.20 + 56.95) |
2 | 2 | ジョアニー・ロシェット | 96.35 (37.90 + 58.45) |
3 | 4 | キャロライン・ジャン | 92.42 (32.40 + 60.02) |
4 | 5 | シンシア・ファヌフ | 89.21 (34.70 + 54.51) |
5 | 3 | 浅田真央 | 87.68 (29.10 + 58.58) |
6 | 6 | 村主章枝 | 86.62 (33.70 + 52.92) |
TES順位 | 実際の順位 | 選手名 | TES合計 (SP + FS) |
---|---|---|---|
1 | 1 | 安藤美姫 | 87.21 (28.98 + 58.23) |
2 | 2 | アシュリー・ワグナー | 85.01 (30.20 + 54.81) |
3 | 3 | アリョーナ・レオノワ | 80.86 (30.30 + 50.56) |
4 | 4 | アリッサ・シズニー | 78.42 (32.44 + 45.98) |
5 | 8 | ジェナ・マッコーケル | 72.42 (21.22 + 51.20) |
6 | 7 | アメリー・ラコステ | 72.31 (29.30 + 43.01) |
7 | 6 | ユリア・セベスチェン | 71.70 (32.90 + 38.80) |
8 | 9 | オクサナ・ゴゼワ | 66.28 (29.64 + 36.64) |
9 | 5 | 浅田真央 | 64.16 (24.10 + 40.06) |
10 | 10 | カタリナ・ゲルボルト | 56.57 (22.80 + 33.77) |
これらの大会では、浅田真央のTES順位は実際の順位より低いことが分かる。つまり、これらの大会で浅田真央は何らかのミスを犯し客観的評価であるTESは低くなったが、主観的な評価になり易いPCSで高得点を出したために実際の順位は上がったことを意味する。「当たり前じゃないか!真央ちゃんの滑りは最高だからミスをしてもPCSで高得点が出るに決まっている!」とマヲタは言い返すかもしれないが、冷静に考えるとこれはおかしいと気がつく。なぜなら、浅田真央はミスを連発してTESで低得点となってもPCSでは一定の得点が約束されていると言っているようなものだからだ。
それが顕著なのは2009ロステレコム杯であろう。TESは全体の9位だったにも関わらずPCSでは全体の1位となり、その結果実際の順位では5位となった。表を見れば分かるように浅田真央以外の選手にはこういった「救済例」はほぼ見られない。逆に浅田真央が救済されたおかげで表彰台を逃す、もしくは順位が下がる選手は多い。その筆頭は2009四大陸選手権および2008エリック・ボンパール杯のキャロライン・ジャンや2006スケートアメリカおよび2006グランプリファイナルのサラ・マイアーであろう。これが浅田真央には常にPCSでの「救済」があるといわれる所以である。
スポンサー名 | 業種 |
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OLYMPUS | 日本の電子機器製造会社 |
CITIZEN | 日本の精密・電子機器製造会社 |
アコム | 日本の消費者金融会社(UFJグループ) |
マルハン | 日本のアミューズメント会社 |
KYOCERA | 日本の電気機器製造会社 |
ASIENCE | 日本の化学品製造会社「花王」 |
GUINOT | フランスのエステ化粧品会社 |
MARY COHR | フランスのエステ化粧品会社 |
Cellier des Dauphins | フランスのワイン製造会社 |
左の表は2009世界選手権での国際スケート連盟公式スポンサー9社[6]の一覧である。本社を日本に置く企業が6社、フランスが3社で、公式スポンサーに韓国企業もカナダ企業もない。このうち浅田真央の個人スポンサーで国際スケート連盟公式スポンサーでもある企業はASIENCEとOLYMPUSの2社であり、それ以外の公式スポンサーが選手と個人契約を結んでいるケースはない。これらのことから、浅田真央がPCSで度々救済される理由としてスポンサーの影響力を指摘する声があるのも事実である。
しかし、浅田真央のPCSでの救済がスポンサーの影響力によって起こっているのかどうかをここで断定することはできない。なぜならば、そのような陰謀説を主張することは「キム・ヨナ八百長説」、「カナダによるジョアニー・ロシェット陰謀説」を唱えるマヲタと同類になるからである。私自身、キム・ヨナやジョアニー・ロシェットの得点は「高いな」とは思うが、大会毎の順位に関しては極めて妥当であると思う。ではなぜこのような浅田真央のPCS「救済」を実例を交えて検証したのか?それはインターネット上で「キム・ヨナ八百長説」、「カナダによるジョアニー・ロシェット陰謀説」を唱えるマヲタ及びその予備軍が非常に多く、あまりフィギュアに関心がない者までそれらの主張を鵜呑みにし、ひいてはそれが事実かのように一人歩きし始めたことへの危機感からである。